新宿駅最後の小さなお店ベルクについて考えた



さまざまな企業の成功事例を共有したり、それについてディスカッションをする「mixbeat showcase」というイベントに参加してきました(mixbeat showcaseについての詳細は公式ブログをどぞ)

僕は初参加だったのですが、非常におもしろかったです。


ソーシャル・リーディングっていうんですかね、プレゼンターが興味深いと感じた企業の事例が書かれた書籍についてプレゼンテーションし、その後に参加者とディスカッションするって流れでした。


前半戦でテーマとなったのは、個人経営の小さなカフェが新宿という土地で生き残った事例として、ビア&カフェ「ベルク」がとりあげられました。


mixbeat showcase#3 新宿駅最後の小さなお店ベルク (藤田さんのスライド) 



新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには?』という本はベルクの店長が書いた本なのですが、新宿駅の中にある小さな喫茶店が売上をあげて生き残るまでの試行錯誤を描いた一冊とのこと。



この本は「顧客主義と現場主義による情熱的なカフェ繁盛記」みたいな内容らしいんだけども、mixbeat showcaseは成功事例についてのディスカッションをする場なので、ただの成功譚として紹介されたわけじゃなく、参加者の僕としても色々と考えながらプレゼンを聞けて面白かった。

僕は名前を聞いたことがある程度で、ベルクへ行ったことはないですし、あまり詳しくはなかったのですが、成功といえるところまでカタチが成り立つまでの道程が非常に興味深いというか面白い企業だった。


親の経営する純喫茶がピンチになったときに業態をシフト。
セルフサービスでコーヒーやビールを出すスタイルにして、顧客主義・現場主義を大切にして大手チェーン店では成し得ないような高回転・低価格・高品質を実現していくという成功例なんですよ。


で。ベルクの評価としては「高回転・低価格・高品質・顧客主義・現場主義」というコアバリュー的なところが切り取られがちなようだけれど、僕にはそれらをイメージして作られたものではなく、環境に対応するために強みの最大化を選択していった「結果」として今のカタチになっていったんだな、と感じられた。

完成形やビジョンをもっていたわけではなく、強みの最大化を着実に、丁寧に、ハズさずに実行していったというのが、スモールビジネスの成功例として非常に面白いし、自分が同じ立場だったら、と考えさせられる。



親の経営する純喫茶がピンチになったときに、彼らの武器はJR新宿駅の改札から徒歩15秒という立地だけだったんだよね。

この時点は顧客主義とか現場主義なんていう理念は持ち合わせていなかった(素地はあったんだろうけど)のが、僕が興味深いと思っているところ。

高回転率を狙って、セルフサービスを始めて、セルフの店であるからにはと低価格にした。この時点だけだと、まだ大手チェーン店に対抗できるところまでの(当時としては強みだったんだろうけど、ここまで長く強みを活かせる状況を作れなかっただろうという意味で)強みを得られてはいない。

効率のために(自分たちの都合で)始めたセルフサービスだったのに、お客様が喜んでいるのに気づいたり、セルフサービスがゆえに手軽にビールを飲みたい女性客に利用してもらえていること「現場にいるから気づき」それが「低価格でも低品質ではお客様に喜んでもらえない」という風に繋がっていく。

まあ、こう書くと当たり前のことなんだけども、最近よく見かけるビジョンや凄いアイディアを軸にブレない運営をしている成功例と全然違うんですよ。
環境・状況に合わせて、適応していく過程で「高回転・低価格・高品質・顧客主義・現場主義」という価値を作り上げ、それらの価値を守るための運営をしていったんですよね。



berg.jpg
あれ、なんか図にするとチープだなwww

こういう運営戦略を考える人ならわかってもらえると思うけど、こういうことって全体最適にならない個別最適に走ってしまいがちだから下から(高品質とか低価格とか)切り取ってアプローチすると失敗しやすいんですよね。

で、ブレないために「ビジョン」とか「ゴール」みたいなものをもって実行するっていうのが定石だと僕は思ってたんだけど、ベルクの場合は「生き残るために価値を最大化するために、できることを頑張る・足掻く」みたいなシンプルというか、原始的というか、そういうアプローチで個別最適に走ることを避けて成功しているのが非常に面白いと思うのです。
(「すごい」っていうより「面白い」って感じなんですよねー)


mixbeat showcaseでのディスカッションでも「これ立地が良かったってのがありますよね」という話が出てたけど、別の駅だったとしても同じアプローチで別の価値を最大化していたかもしれないなあと思うのです(これは良い方向に評価しすぎかもしれないけど)


そして成功の要素が一度そろってしまうと「高回転・低価格・高品質・顧客主義・現場主義」のどれが手段で、どれが目的かなんて関係なくなくって、どれが欠けてもいけないようなループにハマるんだなーってのを実感。
(こういう大切な要素が欠ける瞬間とかも何度も見てきたから、こういった状態をできるだけ長く回す方法についても色々と考えちゃうね)

こういう話は大好き。
何時間でも話せるわ(実際は初参加だから最初は大人しくしてよーって思ってうちにディスカッションタイムがなくなっちゃったんだけど)



あ、mixbeat showcase後半は「顧客感動」を謳って赤字脱出をした例として「はとバス」がテーマだったんだけど、とりあえずこのエントリはここまで。気がのったら続きとして書きます。