「戦略・作戦・戦術」について ──戦略を語れと言われた気がするから、戦略を語ってみるぞ

今日は「戦略」について自分なりの理解を書いてみようと思う。

まず、「おい、戦略を語れ」という技術ブログ界隈で有名な nwiizoさんの記事がとても良いので、みんな読んだ方が良い。
特にビジネスで「戦略」という言葉を使いがちな人は読むべきだと思う。ただ、想像する3.5倍くらいの長文なので、時間と思考力があるときが良いかもしれない。

会議室で誰かが「戦略」と言った瞬間、空気が変わる。

みんなの背筋が伸びる。うなずきが深くなる。誰かがおもむろにホワイトボードの前に立ち、矢印を描き始める。私も「なるほど」という顔をしてみる。眉間にしわを寄せ、顎に手を当て、いかにも深く考えているふうを装う。会議室にいる全員が、突然「戦略を理解している側の人間」になる。

ただ、私は知っている。この部屋にいる何人かは、私と同じことを思っているはずだ。

「で、結局、何をするの?」

syu-m-5151.hatenablog.comより引用(太字は筆者による)

これと同じような状況になった人も多いんじゃないだろうか。ぼくも何度も遭遇したことがある。

nwiizoさんも似たことを書いてるけど、「2年で売上を3倍にします」は目標であって戦略ではないし、「ユーザーを幸せにします」はビジョンやミッションの類であって戦略ではないし、気合の表明やスローガンは戦略ではない。

 

なぜ、目標やスローガンのようなものが「戦略」として語られてしまうのか。

ここからは、nwiizoさんの「おい、戦略を語れ」とは少し違う観点で「戦略」についての話を広げてみようと思う。目標やスローガン、ビジョンのようなものが「戦略」として語られてしまうのは何故なのかを考えてみたい。

ぼくの仮説だけど、「戦略・作戦・戦術」というセットではなく、「戦略」だけ独立して考えるものという誤った概念で理解しているからではないかと考えました。

こういう図が(今回はGemini3で生成)、日本のビジネス界隈ではよく流通しています。

戦略・作戦・戦術・兵站がピラミッド上になった図

おそらくですが、これは米軍の統合運用について書かれた統合ドクトリン文書群のJP 3-0にある「3つのレベル (戦略・作戦・戦術)」という考え方が広まったものだと思われます。

「兵站」が合体してるのは、たぶん日本のビジネス界隈だけっぽくって、軍事学や経営学から来たものではなさそうです。正確な元ネタをご存知の方がいたら教えてください。

 

「戦略・作戦・戦術」は部隊の規模や組織階層の分類ではないし、そこだけ切り出して使うもんじゃない気がします。

ビジネスわかってるつもりおじさんが「それは戦略ではなく、戦術っすね〜」と言ってくることがある。米軍JP 3-0では、「戦略レベルがこれ、戦術レベルはこれという境界や上限下限は決まってない」とされているんですが、それをご存知ですかと聞きたくなる。聞かないけど。

国や指揮官が目的達成のための配置と配分を考えるためのモデリングであって、組織階層や部隊規模に合わせて分類するものではないわけです。
(これ↑の意味が分からない人は、「戦略・作戦・戦術」って言葉を使わない方がいいんじゃないかなあと思います)

JP 3-0にも「組織階層(Hierarchy)に結び付けられがちだが、どのレベルになるかは任務や目的の性質で決まるので、組織階層ごとに固定するもんではない」と書いてあります。

組織図をドメインとして扱わないってソフトウェア設計みたいな話だね!

「戦略・作戦・戦術」に分類することは「Levels of Warfare」という名前の概念なんですが、このLevels of Warfareってのを正確に表現する日本語がなさそうなんですよね。
「戦争レベル」とか直訳すると規模の話っぽくなって理解しづらくなるし。

むりやり説明するなら、「目的と任務の性質の違いを分類するための概念がLevels of Warfare」って感じでしょうか……。
(もっと上手く説明できる誰かに言語化してもらいたい)

前述の通り、戦略→作戦→戦術という上から下(あるいは左から右)へ一方通行するモデルではないのですが、日本のビジネス界隈でよく見るピラミッド図が広まったことで、「戦略」と「戦術」を分離する思考法として利用されるようになってしまったのではないでしょうか。

それで、本来はセットで語るべき「戦略・作戦・戦術」が「戦略」単品で語られてしまうようになってしまったのかなと思います。

 

「戦略・作戦・戦術」を、どのように目的達成されるか設計するモデルとして使う。

前述のように、「戦略・作戦・戦術」に分類するLevels of Warfareという概念は、「国や指揮官が目的達成のための配置と配分を考えるのに役立てるモデル化するもの」です。

どのように使うと良いのかというと、戦略→作戦→戦術という一方向モデルではなく、「目的←→現場の軍事行動のそれぞれを行き来しながら3レベルにマッピングする」ような使い方をすると良いのではないでしょうか。

ただ、それを上手くやるには、作戦術を身につける必要があります。

作戦術(Operational Art)とは、国家目標と軍事行動の間を繋ぎ、どのように進めるかを立案・実行する技術や思考法のことで、JP 3-0で重要な概念とされています。

また、米軍統合ドクトリンJP 5-0文書では、作戦とそのための作戦術は、実行計画を作るためにある、としています。
(実行計画は、広い戦略概念を具体のミッションとタスクに翻訳して、実行可能にするためのものです)

つまり、「目的を果たせる具体的な実行可能な計画を作る」には、高度な作戦術のスキルや思考法を身につける必要があるということです。

 

我々がよく会議で「戦略が必要」という言葉を聞くときに本当に必要なのは「目的を果たせる具体的な実行可能な計画が必要」という話なので、「戦略」だけではない全体像(米軍で言うところの統合作戦そのもの)を指して言っているのではないかと思います。

つまり、それは目的を達成するための全体の方針と実行可能な行動計画であって、 Levels of Warfare 分類での「戦略」ではない。まあ、「戦略」になっていれば、まだマシほうで、スローガンや目標を「戦略」と言っていたりするから酷いもんだよね…。

と言うわけで、ぼくらに必要なのは「戦略」ではないのかもしれません。

ここらへん詳しく知りたい人は、海上自衛隊幹部学校が公開している「アメリカ海軍の作戦(連載)」のなかに『アメリカ海軍作戦計画作成手順』だとか『「戦いのレベル」と「作戦」』というコラムがあるので読んでみると良いかもしれませんね。

www.mod.go.jp

 

追加指示なしに目標に向かっていく規律ある主導性(disciplined initiative)を重視しているのが「現代の軍隊式」。

どうしても、「戦略・作戦・戦術」などの軍事フレームワークを見ると、ぼくら一般人は上層部の考えや命令を下に伝えていくトップダウン方式の組織運営「上意下達」をイメージしてしまいます。

しかし、実際の戦場で上長にいちいち「これで合ってますか」なんて確認をとっているヒマはないでしょうし、かといって各自が「俺はこれが正しいと思う」と勝手に動いていれば統制がとれず、戦略も作戦も実行されずに破綻してしまいます。

JP 3-0などでは、下位の指揮官が規律ある主導性を発揮して、積極的かつ独立して任務を達成する、と書いてあります。

統合作戦を、詳細な指示で縛るのでなく、目的・任務型することで下位チームで判断ができるようになり、分散型で目的に向かっていけるようにしているのだそうです。

そして、「指揮官の意図(intent)」を伝えることが下部チームのリーダーに最大限の自由裁量を与え、もしも作戦が計画どおりに進まなくても、追加命令なしに指揮官が必要としている結果に向かって自律的に動けるようにする、とも書いています。

チームが何をし、どんな状態を作れば任務達成なのかという「指揮官の意図を短く明確に言語化するために目的、完了条件、制約・リスク、優先順位、裁量条件を含めて伝える」とも定義されています(JP 3-0 / ADP 6-0)

まんまマネジメント系のビジネス書にも書いてあるやつだ。

指揮官は全階層の下位リーダーの「規律ある主導性(disciplined initiative)」作り、指揮官のintentの範囲内で自主的に判断させ、各チームがリアルタイムに意思決定して任務を前に進めることが重要だと書かれています。

よく、ビジネスだと「みんなが方針や戦略を理解する」と言うけれど、実は各チームが理解すべきなのは戦略よりも指揮官の意図(intent)なんだと考えると理解しやすい。
問題領域(ドメイン)を適切に分割し、それぞれに集中できる組織モデリングと情報統制をしてるわけで、巨大プロジェクトをめちゃくちゃ整理しているなーという感じ。

強烈なトップダウンであるように見えるけど、現場の自由裁量を奪わないので一般的に言われる「上意下達」とは違うのかもしれません。

分散実行するための環境整備・情報管理は指揮官の責任であるとして(姿勢や心の持ちようではなく具体的に)条項として「トップダウンにして良いこと」と「現場に任せること・任せ方」まで徹底的に設計されているのです。

以下は米陸軍での整理例だけど(ADP 6-0)、こんな感じ。

  • competence
    訓練・経験・知識によって任務を自力で回せる状態にする。

  • mutual trust
    できることを指示されている、できないことはやらせてないという相互信頼。

  • shared understanding
    目的、状況、優先順位、制約、リスクを同じ前提で理解できるようにする。

  • commander’s intent
    指揮官の意図。なぜやるか、何ができていれば成功か、どのくらいリスクを許容しているを短く示し、わかりやすく伝える。

  • mission orders
    何を達成するかを示し、やり方は下位リーダーに任せる指示の出し方をする。

  • disciplined initiative
    指揮官の意図を理解し、自分で状況判断をする。勝手な行動ではなく、意図の範囲で素早く目的に向かって動けるようにする。

  • risk acceptance
    どこまでリスクを取るかを伝え、実行部隊はそのリスクがあることを許容して動く。

我々が言葉からイメージする「軍隊式」とは、ぜんぜん違う。
目的を達成するために「動ける組織」を作ることが現代的な考え方なんだろうね。

 

また、米軍統合ドクトリンJP 5-0文書では、実行して評価(assessment)を行い、変更していくことが重要だとしています。

アジャイルっぽい。

つまり、「決まった計画を実行する」のではなく、後工程で問題が見つかったら前工程の修正を要求できることが重要なんじゃないかなと思います。

上流工程から下流工程に一方向に流れるのではなく、同時並行的に動き、状況変化に応じてどこからでも再計画できるような情報設計・組織設計をすることが重要なんでしょうね。

 

作戦を立てて実行して、評価して、また作戦を立案しよう。

ビジネスの現場である私企業だと、ここまではできない。
それはそうかもしれない。

でも、やり方は示されているんだから、そこから学んで自分たちにできることをやっていこう。

ぼくも「お前はどのくらい大きな戦略をやれるんだよ」って言われると自信はないけど努力はしていくよ。みんな、がんばろーね。