漫画村などのリーチサイトを潰したい人が山ほどいるのに、潰れないのはなぜか。

これは「漫画村などのリーチサイトを潰したい人が山ほどいるのに、潰れないのはなぜか」や「政府主導のブロッキングがなぜ問題になっているか」を解説する記事です。

漫画村などのリーチサイトについて

漫画村が有名ですが「リーチサイト」は、ネット上の著作権侵害コンテンツ(漫画、雑誌、テレビ番組、映画)をまとめたサイトです。

他人がアップロードしてようと、リーチサイト自身がアップロードしていようと違法性は問えるのですが、最近話題の漫画村などの一部のリーチサイトは「日本の法律が及ばない海外で運営している」と言い張って、"違法ではないから安心して利用できる"として海賊版コンテンツを提供してユーザーを集め、多額の広告費を得ています。

漫画村をなぜ潰せないか

日本の法律が及ばないとは考えにくく、実際のところは違法性が問えるだろうという法律家の見解もよく見かけますし、僕個人もそう思っています。

っていうか、単に捜査されないように何重にも防護してるから現状は違法性を問われていないるだけで違法行為ではあるでしょうよ…。

よくまあ、「違法ではない」なんて言えたもんだな、と個人的には思っています。

捜査して逮捕できないのか

漫画村などのリーチサイトが自分たちは違法ではないと言い張っていても、捜査して犯罪の証拠をつかめば逮捕することは可能しょう。
ただ、それは簡単ではありません。

警察力での解決は

こちらの図をご覧いただければお分かりかと思いますが、海外の犯罪組織を支える防弾ホスティングやCloudflareを使った隠蔽を行っています。

これで捜査の手が伸びないようになっています。
日本の広告を表示しているので、広告経由で捜査することは不可能ではないように見えますが、ここまで周到にやっているわけですから、広告から簡単に足がつくようなヌルさでやっているとは考えにくいところです。

(※防弾ホスティングは犯罪の温床ですが、CDNの方は普通の企業もよく使う一般的なものですので別物です)

漫画村などのリーチサイトへのDMCAテイクダウン、著作権を使った対応

企業の悪評隠蔽やTwiterアカウント凍結などの様々な悪用をされていることで有名になってしまったDMCAですが、テイクダウン申請をすることで著作権侵害への有用な対策ができるものとして機能しており、現場では日々活用されています。

DMCAはデジタルミレニアム著作権法のことで、米国の著作権法なのですが、米国企業が主流であるインターネットではデジタルコンテンツに関する著作権として事実上の世界基準となってきています。

「いまこそ、DMCA使って漫画村を陥落しろ」的なツイートを日々見かけるのですが、それも簡単ではありません。

漫画村、DMCAテイクダウン

DMCAの情報公開をしているLumenを見ると集英社や講談社、多くの権利者・代理人が漫画村に対してDMCAテイクダウン申請をしています。ちゃんと活用されていますし、DMCAがなかったら野放しになっていたものへも対応されています。

ただ、権利者が個別の作品ごとに載ったページを1つずつ丁寧に申請していけば、「そのページ」をGoogleの検索結果から外すことはできるものの、申請が通っても検索に表示されなくなるだけでリーチサイトから消えるわけではありませんし、サイト全体を吹き飛ばすことは難しいのが現状です。

そのページを検索できなくしても、リーチサイトが更新され次々とアップロードされると、またどんどん申請をしないといけません。
著作権侵害をする側が有利すぎて権利者が疲弊するだけの一方的な「DMCAもぐらたたき地獄」です。

「漫画村にDMCA申請しろよ」というツッコミを見かけることがありますが、上記のように申請はどんどんされています。
DMCAは非常に素晴らしい仕組みで今後もリーチサイトのテイクダウン申請をしていく必要はありますが、本件のような悪質なリーチサイトに対しては権利者の負担が大きい割に、リーチサイトに与えるダメージは軽微なものでしかなく、クリティカルな解決策とはなりにくいのです。

サイトブロッキングの問題点

そこで議論されてきたのがサイトブロッキングです。
以下は2018年4月6日の毎日新聞、"海賊版サイト:遮断要請へ 政府、著作保護に「緊急避難」"という記事からの引用です。

政府は国内に拠点を置くインターネット接続業者(プロバイダー)に対し、ネット上で漫画や雑誌を無料で読めるようにしている海賊版サイトへの接続を遮断する措置(サイトブロッキング)を実施するよう要請する調整に入った。月内にも犯罪対策閣僚会議を開催し、正式決定する見通し。

三つの海賊版サイトの具体名を挙げ、接続業者に要請する予定。うち2サイトは中国など他国で行政指導や捜査当局の摘発を受けたにもかかわらず、日本国内からアクセスすると閲覧できる状況が続いている。

また、以下の資料は首相官邸のWebサイトにあったサイトブロッキングの資料です。
(本記事の一番最後に資料へのリンクがあります)

知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会(第3回) (参考)サイトブロッキングの概要 から引用

知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会(第3回) (参考)サイトブロッキングの概要 から引用

つまり、刑事としても民事としても引きずり出すのが面倒な漫画村などのリーチサイトに対して一般ユーザーがアクセスできないようにしてしまおう、という力技です。

漫画村などのリーチサイト・海賊版サイトが問題であるという認識は多くの人が持っているので「政府が動いた」と歓迎する向きもあるものの、憲法や通信業の基礎たる「通信の秘密」を法改正などの議論なく「緊急避難」として「政府の要請」を行うのは大きな問題を残してしまうという専門家から批判の声があがっています。

専門家ではない一般の方が「悪いやつがのさばってるんだから、とっとと対策しようとする政府が正しいだろう」と思うのも理解できるのですが、実は今後のインターネットや国としての情報の取り扱い方に影響を与える乱暴な方法であり、ブロッキングを著作権侵害に適用するにしても法改正や手続きのあり方を再度議論する必要が強く望まれています。

ここは難しい話なので「どうも問題がある諸刃の剣らしい」程度の理解で良いかと思いますが、詳しく知りたい方はこの記事の一番下にあるリンクやツイートをご覧ください。

サイトブロッキングはデメリットが大きい割に効果があまりなさそう

そのように手続きや運用に大きく問題のあるサイトブロッキング。
「それでもリーチサイトに大きなダメージを与えられるのであれば肉を切らせて骨を断つのだ」……というお気持ちは理解できるものの、多くのテクロノジー界隈の識者が「ブロッキングは思っているほど有効な効果が出ない」と考えているようです。

基本的にブロッキングは、ドメインに対して行うことになります。

ドメインなんてひとつ潰したところで何の意味もありません。
同じサイトに多数のドメインからアクセスできるようにするのはウィキリークス(様々な機密情報の告発サイト)の例を見るまでもなく誰でも思いつきます。

例えば、多数あるウィキリークスのドメインをひとつずつ遮断することを諦めた中国政府は"WikiLeaks"をURLに含んでいる全てのサイトを遮断しようとしているそうですが、規制された語の入らない別名ドメインを多数用意されてしまい、結局はサイトブロッキングを回避されているようです。

コストも規模も世界最大のブロッキング(金盾)を持つ中国ですらこれですから、日本政府が「緊急避難として」指定ドメインをいくつか各プロバイダにブロッキングの要請を数回する程度ではドメイン変更や別サイトとしてリニューアルして抜けられてしまいますし、ブロッキング回避ツールでも対策できてしまいます。

一時的に漫画村などの有名リーチサイトを検索から追い出して、カジュアルな一般ユーザーのアクセスを減らすことはできるでしょうけど、本当に一時的でしかないでしょう。効果は非常に限定的といえます。

サイトブロッキングで戦うならば、法整備をして継続運用できる制度を作って徹底的に戦う必要があり、「緊急避難として」今回だけ政府が指定ドメインをプロバイダに通達しても焼け石に水だということです。

対策案① 広告の制限

インターネット関連技術に詳しい人たちが提案している対応策がいくつかありますが、やはり儲かるから悪事を働いてるわけです。ここの資金源を断つことが一番ではないでしょうか。

防弾ホスティングなどの圧力をかけることが難しい相手は突破できなくても、広告システムを提供している事業者を押さえることは可能そうに見えます。

恐らくですが、配信されている広告はアドネットワークから機械的に配信されてきているもので、広告主が自らの意図で漫画村に配信していないでしょう。広告主ではなく、広告システム自体を提供している企業を捜査して押さえる必要があると思われます。

恐らく足がつかないようにしてはいるでしょうから簡単ではないかもしれませんが、警察力なり総務省・経産省パワーなりでリーチサイトの資金源である広告収入をブロッキングすることは現実的に可能そうに見えます。

政府が立法もせずにサイトブロッキングを緊急避難として使用するくらいの緊迫している現状なら、警察や省庁をガンガン動かせるのではないでしょうか。

対策案② CDNの遮断

ところで、CloudflareがこんなEVILな事業者だとは知りませんでしたね…。
日本で使われているCDNシェア一位との話もあるような企業なんですけど、もう使うの止めたいな…。

Cloudflare対策についてははてな匿名ダイアリーの記事が詳しく分かりやすいです。

Cloudflareはアメリカの大手CDN業者である。某画村はここを利用している。今まで、Cloudflareは自分たちはただのキャッシュであると主張し法的責任から逃げていた。が、この前Sci-Hubという海賊版サービスの訴訟で逃げ切れなくなり、Sci-Hubのファイル配信を停止した。

いくらCloudflareが強硬な態度とはいえ、名のある米国企業ですから一定以上の無茶はできないはずですし、そこまで漫画村などのリーチサイト運営者にに義理立てする必要もないはずですから、外交圧力かけるだとか大手雑誌社のパワーで民間訴訟するなど総動員でCDNを止めにいくのは良策だと思います。

また、Cloudflareはこの4月1日からDNSサービス「1.1.1.1」の提供を開始しました。Cloudflare側の発表によればアクセスプロバイダがDNSを利用してWEB閲覧履歴を取得できることを1.1.1.1で避けられるとのことですが、これは多くの海賊版リーチサイトを幇助している彼らがサイトブロッキングされることを回避しようとサービス提供しているのではないかとも疑問の声があがっています。

多くなまっとうな日本企業がリーチサイトを幇助するCloudflareを使っている状況です。
様々な圧力をかけてでもCloudflareのリーチサイトを幇助を止めることはメリットがあると思います。

CDNが止まればリーチサイト運営者は海賊版の配信コストを払うのが苦しくなるでしょうし、元ホスティングサーバーが丸見えになって身元も割れやすくなるわけですから。

対策案③ 司法で裁く(難しいのは分かるけど)

これは対策というよりも願望ですが、やはり逮捕して司法で裁いてほしいというのはあります。
漫画のリーチサイトで稼げなくなったら、他のダークサイドなことやるだろうし。

広告システム経由か、外交筋を通じての情報提供でも何でもいいから本気で捜査をして尻尾を掴んでほしいですね。

政府の規制よりも自浄作用の働くインターネットでありますように

僕はこの件について専門家ではありませんし、仕事でもここら界隈には関わりがゼロに近いほど少ないのですが、インターネット原住民のひとりとして技術に詳しくない政府の作った規制がかかるインターネットよりも自浄作用の働くインターネットであり続けられることを願っています。

もちろん、法律や犯罪に関することですから自浄作用だけでどうにかなるようなものではありませんが、インターネットに関わる人たちから、あるべき姿が提示されていって、それが制度に取り込まれていくようなものだと良いな、といんたーねっつ原住民の僕は思います。

仕事の作業あるのにブログ書いたのも、いんたねっつ愛ゆえです。仕事が嫌でサボったわけじゃないぞ!

(追記: 漫画村はリーチサイトではなくドストレートに海賊版サイトではという指摘を沢山いただきました。確かにそういう表現の方が良かったなと思っていますが、どちらの表現でも本稿の意図する内容に大きな影響はなく別サイトに画像ホストしているのでこのように記載しています。)

以下は参考にしたツイートと記事リンクです

海賊版サイト「ブロッキング要請は法的に無理筋」東大・宍戸教授、立法を議論すべきと批判|弁護士ドットコムニュース
https://www.bengo4.com/internet/n_7683/

知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会(第3回) P6(参考)サイトブロッキングの概要
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/contents/dai3/siryou1.pdf

日本国内の設備から海賊版サイトを配信する米CloudFlareブロッキングを無効化する新サービス開始(楠正憲) - Y!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/kusunokimasanori/20180408-00083736/

某画村のブロッキングに意味はない
https://anond.hatelabo.jp/20180406153029