B2Bサービスにおける「意思決定者エクスペリエンス」

「意思決定者エクスペリエンス」という僕が勝手に作った言葉があるのですが、最近やたら使う機会が増えている。

企業向けサービス(B2BだとかB2B2Cといった)には、導入の意思決定権をもっている管理職や経営者が「おお。これは我が社に必要だ。導入しよう」とつい言ってしまうような、意思決定者にやたら刺さるプロダクトというのがある。

ぼくが「意思決定者エクスペリエンス」という言葉を使うときは、そんな感じで実際の利用者ユーザーである社員にとってはイマイチなのだが、意思決定者に刺さるものというような時に使うことが多い。つまりあまり良くない意味で使うことが多い。意思決定者 最適化と言ってもいい。

導入されれば他社へ乗り換えされにくい領域だと特に「意思決定者エクスペリエンス」偏重になっていて、ユーザーエクスペリエンスよりも優先されていることも多い気がする。全てがそうだという話ではないけれど、多い。

例えば、事務系の社内申請をデジタル化するツールで、管理職にとっては嬉しいが、使っている社員にとっては面倒な業務が増えているだけ、みたいなやつ。ありますよね。

「ウチで使ってる****のことかああ」と叫んだ読者の方もいるのではないでしょうか。

実際のユーザーと意思決定者、両方にとって良い体験を作り出している凄いプロダクトもある。あるけれど、偉大なプロダクトが作れているチームはあまり多くない。
むしろ、意思決定者が価値を感じることに集中してリソースを投下した方がよく売れるからそうなっているのだし、ユーザー向けの価値を高めようと頑張っても導入数も売上も増えずビジネス影響しない……という状況も多いかもしれない。

それが故に意思決定者エクスペリエンス偏重のプロダクトは増えていく。

 

意思決定者エクスペリエンスに偏りすぎたプロダクトが広まることは市場原理なので当然ではあるのだけど、あまり良いことではないような気がする。ユーザーだけではなく、それを作ったり売ったりしている人たちにとっても矛盾を抱えた仕事することになったりするし、売ってる方にも買ってる方にとっても市場にとっても長期的に見たら大変よろしくないのではないか。

いや、意思決定者エクスペリエンスに偏るビジネスをしていても、それは当然にそうした方が事業にとっての正解ならばそうするべきだし悪く言うつもりはない。意思決定者に刺さらないから売れてないプロダクトも結構あるし、それが市場原理として当然の結果なのだし。

とても難しい話なのは分かっているのだけど、できるなら価値が全方位に発揮される偉大なプロダクトを目指したい。

 

そう考えるとSlackくらいユーザーに支持されるって凄いことだ

とある大きい会社で聞いた話なのだけれど、その会社では社内コミュニケーションにSlackが導入されていて、情シスや経営者は「本当は****にしたら、かなりコストダウンになるし管理もしやすいのに」と思っているそうだ。

しかし、「もし****に切り替えるならば俺はこの会社を辞めるぜ」という強気の社員のひとたちが多数いるので、結局Slackを継続して使い続けている。

その会社の社長や情シスのひとたちはトホホという顔をしながら「社員みんながSlackが良いっていうからさ…」と言っていたが、ユーザーからの愛で意思決定者を超えるほどの力を生みだしているプロダクトは本当に偉大だ。

 

Slackレベルでユーザーに価値提供できるかは分からないけれど、自分が作ったり設計に関わるようなB2Bものは、できるだけ「意思決定者エクスペリエンス偏重にすればするほど儲かる」ではなく、ユーザーも意思決定者もみんな幸せになるサービス設計、プロダクト開発をしたいなあと思っている、という話でした。

なかなか難しいですけどね。がんばろう。

 

****には頭に浮かんだサービス名をご自由に入れていただいても良いですが、それは思いついたYOUの頭の中にあるサービス名であって、ぼくがそのサービスを貶めようとしているわけではないことはご承知置きください。